「で、それを聞きに私の所まで足を運ばれたという事ですか…。」

目の前の男性は苦笑いをして僕とアキを見ている。まあ、当然と言っちゃ当然だ。理由はどうであれ、「あの」研究で自分の職場が潰れた訳で、できれば隠しておきたい過去な訳だし。
しかも、会社の潰れた元凶かもしれない、つまりは(元凶自体は卵子時代の)僕。が目の前にいるとなるとその心情は、判らないほど馬鹿でも鈍感でも無いつもりだ。
「確かに、DNAを採取した被験者の表情とそっくりですね。それは認めます。ただ、お役には立てそうにないですね。お二人がお調べになった内容の通り、私が研究所員でなくなってから、もう長い時間が経っています。仮にDNAサンプルを持ち出していたとしても、これだけの時間が経っていると精度の高い分析ができるかどうか。」

連絡先だと、男性の今の職場の名刺を渡してくれた。

「しかも、当時の受精卵は他の研究員が紛失してしまって、その後のごたごただからね。分析データだとかその手の類いのものも一切無いんだ。ただ、協力できる事は協力するよ。君たちの仮説が正しいなら、ユウ君だっけ?キミは僕が一生かけても償わなければいけない相手だしね。」

今の段階で判断するのはどうかだとか言われると思うけど、悪い人ではなさそうだ。正直そう思いました。実際問題、間違ってはいなかったんだけど。

「でも、それでいいのかい?確かに、結論が判ったとしても隠しておくことはできる。愛さんところなら、その辺は朝飯前だと思うよ。けど、なにかの拍子でその情報が漏れた時、世間がキミを見る目はおそらく、実験用のラットをみる目になると思う。それは紛れもない事実だと思う。」
「それは覚悟しています。確かにそれは怖いです。でも、その怖さよりも知りたいという欲求の方が大きいんです。」

僕がそう返すと、急にアキがビックリしたように話だした。

「え?愛先生の事ご存じなんですか?」

アキの言葉に苦笑いをしながら、軽く頭をかき、答えてくれた。

「名刺を見てくれるとわかるとは思うんだけど、医療ジャーナリストとは言いづらいけど、医療ジャンルを取り扱う事の多いジャーナリストかな。仕事柄、ブッキングする事が多いのと、私の場合、割と前科の事で話が繋がらない事があるんだけど、愛さんは割とそんなこと関係なしに取材にも協力してくれて。未だ彼のことに関しては和解してないんだけどね。」

基礎情報って事で資料渡したじゃん…と思う反面、まあアキらしいなと思ったりもした。

引くのが早いって言われそうではあるのだけど、なにかあれば連絡を頂ける事を約束して、今日のところは学校に戻ることにした。