「先日の件、私の探せる範囲で昔の研究所時代の情報をあさってみたのですけど。信用しづらいかもしれないけど、落ち着いて聞いてくださいね。」

この始まり方はまず、普通のことではないんだろうっていうのは何となく判る。ただ、本当にとんでもない事であった場合に、本当に落ち着いて聞けるかどうか正直自信はなかった。
おそらく困ったような顔をしていたのだろう。アキと部長の顔を少し伺うと、2人は電話を多人数モードに切り替えて、この通話に接続してくれたようだった。
「体細胞クローンの実験だけど、私より先に首になった研究員のパソコンをなんとか手に入れて、何十にも上書きされているハードディスクを解析していたら、ちょっとそれ関係の情報が出てきたので、取り急ぎそちらに送った。確かに細胞を採取した少年の情報は、高校時代の愛先生の彼の年齢や身体的な特徴は一致する。このデータがフェイクじゃなければ、確かにこの時期に肺細胞に合成する技術を開発していたようだ。」

僕は、電話を聞きながらリュウさんから送られてきた資料に目を通す。その横から部長やアキもその資料を覗き込んだ。この後少し遺伝子学上のお話しが続くのだけど、僕自身は正しく説明できる自信がないので、少し省略する事にしたいと思う。それでしばらく話しが続いて、

「もちろんどうにか本人か親族のサンプルを入手して、検査をしないと確定はできないのだけど、DNA上、キミは愛先生の彼であるユウさんの年の離れた双子である可能性が高いと思う。もう一つ、これは嘘であって欲しいのだけど…」

どんな事が出てくるのかとドキドキしたと言いたい所ではあるのだけど、送ってもらった資料にでかでかと書いてあるのでどうも無視できそうにない

「資料の通り、年の離れた一卵性双生児とあると同時に、産みの親だった可能性があるみたいだ…。」

ええ、なんのSF小説ですか?それともなんですか、ふたなりかなんかですか?言ってくださいよ、そこでこっち見てる人!

僕の頭の中で、よくわからないイラストが気が狂いそうなくらいにぐるぐると回っている最中、途中から部室にきたんだと思う愛先生が、割り込み通話を設定して、通話に入ってきた。

「えっと、お久しぶりです。記憶に間違いがなければ、高校の卒業式があったあたりから私達でいうつわりのような症状と、大学に入学した直後にそれほど食事の量が増えた訳ではないのに、腹部が太っているような症状をみかけたのですが、要するにそのくらいの時期でしょうか。」
「カルテというか、残っているレポートを見る限りでは、その時期のそれがそうだった可能性はあっても可笑しくは無いかとは思います。愛さんが私に会いに来てくれた時にそれをお伝えできれば、もっと消息を追えたのかもしれまえんが、このパソコンが残っている事を知ったのも、データを復元できる可能性を知ったのも最近でした。…申し訳ございませんでした…。」

受話器を握っている愛先生の目から涙がこぼれている所をみて、僕はすこし現実に戻って来た。

「リュウさんのせいじゃありませんね…。一緒にいた私がそれを変化として捉えていれば、まだ彼は私のそばに居たかもしれません。」

落ち着いて話しているようで、言葉は少し震えていたように聞こえた。

「あの、その件なのですが、ひょっとするともう少し足跡を追えるかもしれません。…ですが、良い答えにならないかもしれません。私としても愛さんと、そちらにいらっしゃるユウさんを追い詰めるつもりは毛頭もありません。これできっぱりと忘れると言うのであれば、私もこれ以上は調べませんが…」

「いえ、一緒に続けましょう。…じゃなきゃ、踏ん切りがつかないままな気がしますし。私も、カワイイ学生であるユウさんも、そしてたぶんアイツも」