(フィクション)
5.夢で無い...現実
 夢であってほしかった。でも、そうではないようだ。自分の目の前にあるのは、そう。はっきりとした現実だった。民主主義であるはずのこの国。憲法で守られているはずの自分や..みんなの権利。それが、目の前で、崩れ去ってしまう。悲しい事だった。

「腕時計の上に手のひらを添えてみろ。」

ここは、彼の言葉に従う以外思い付かなかった。手のひらを添えると、腕時計を中心に光のようなものが発生した。と、同時に、液体のようなものに私の体はつつまれた。苦しくはなかった。空気もすべてロボットと同調するためのもの。そう後で聞いた。その時は、何も考えられなかった。
 液体のようなものにつつまれた私は、ロボットの(人間でいう)心臓のあたりに吸い込まれた。不思議に、その時は焦っていなかった。ふしぎに..

「聞こえます?秋人君。今、あなたは、ロボット自身で、ロボットへ与えられた衝撃は、10分の1になりますが、あなたも伝わります。ロボットが壊れる時、それは....、言わなくともわかりますね。ただ、今私の声が聞こえているように、こちらでも、そうならないように最低限の制御を行います。この制御もあなたの脳や精神に影響を及ぼしてしまうので、最低限しかできません。あなた自身の身は、あなた自身で守るしか無いという事です。あ、私、外部・オペレーターの工藤優子と申します。」

(秋人=この小説(現実と夢の境で)での「私」)
優子さんは、仲間?...そういうより、職場が同じというだけという事になるだろう。最低限の制御の権限を持っているという事は、私の生死の一端を持っているのと等しい事だった。だから、余計、恐怖と不安をもってしまった。
 でも、もう逃げられない....間違えなく、そう思った。これが現実ならばもう、従うしか、生きる道は無い。そう思い込んでいた。でも、それが現実だった。認めたくない、悲しい現実。その現実の中で、わたしが言った言葉はこうだった。

「優子さん。別の会いかただったら、好きになってたかもしれない。だけど、いまの状況だと、将来、あなたをうらんでしまうかもしれない。でも、それまで、わたしのお姉さんでいてほしいです。かまいませんか?」

優子さんは、すこし間をあけて、

「いいわ。おねえさんでも。もし、うらまれても仕方が無いと思う。だって、苦しいのを解っているのに、辛いのを解っているのに、無理矢理戦いに送り込む事になってしまうんですから。その事で、私も死ぬことがあっても、あなたをうらんだりはしないわ。だって、自分自身が選んだ道ですもの。」

と言った。冗談か、本音かはよく解らなかったが、私はすこし安心したような気がした。真っ白だった頭の中がすこし晴れたような気がした。
(「現実と夢の境で」/つづく)