何度も言うけど、愛先生は変だ。そう、はじめてこの部室に来た時もそうだった。
入学してから数週間、帰宅部に決め込もうとしていた僕にアキがこう声をかけた。
「ねえ?ユウは部活どこか決めたの?」
あ、言い忘れたけど、アキというのは親同士が友達で家族ぐるみで付き合いのある、まあ言ってみれば幼なじみというべきなのか腐れ縁というべきなのか。普通に進めば学区が違うはずで、普通に通っていれば幼稚園を除いては学校は違うはずなのだけど、何故か小、中、そしてこの高校までも同じ。小学校や中学校は親の都合って言うのもあるのかもしれないけど、さすがに高校は。
彼女は、たまたまだと言うのだけど。どう考えればいいと思う?
まあ、それは置いておいて、僕としてはアキに押し切られると断り切れないというか、振り切れないので、なにか言おうとしたのだけど、空白を作ってしまったというか、スキをつくってしまったというか。
「報道同好会っていうのがきになるのよ!決めてないなら行きましょう?」
選択肢の項目自体がなかったのは事実で、気がつくと手を引かれて「部室」…といっていいのか、その前までたどり着いていた。
「アキ、やめとこうよ。報道同好会って、あの噂のでしょ?からかい半分で行った先輩達が完全に黙り込んで出てきて、しまいには登校拒否になっただとかいう。そんな怖いところ…」
「あら?でも、今では一流の記者になった先輩も存在するって話よ?余計気になるじゃない。」
「だからって、僕らが後者に該当するかってそんな保証ないじゃない!」
逃げようとしたとき、部室のトビラが開き、顧問の先生。つまり愛先生が出てきた。
「じゃあ、私が保証しようかしら?ユウさん。」
愛先生は、見たことのないメーカーのスマートフォン。
「えっと、ユウさんの父親は四菱商事の新事業開発部の部長、アキさんの父親は同社ビジネスマッチング部の部長で、同時期に同じ役職についた関係で交流も多く、特に二人は家族間でも付き合いがあり、ユウさん、アキさんについても、同様。現在、父親同士で四菱商事に出資を受けた形の新会社を設立する予定でその準備中であれ、その関係はより密になっている。…と、この辺だったら、クラス担任に聞き取ればわかるかしら。」
硬直している僕に対して愛先生は軽くほほえむ。
「要は、万が一の場合を含めて相手の弱みを把握しておくって事。登校拒否になった男性生徒は明らかに悪意をもった上で接触を試みたので、それ以上の情報を提示したって事ね。調べた限り、あなたたちにはそういう気配は感じられない。もし万が一、その意図を持っていた場合としても、対処可能な範囲ですけどね。」
今度は、アキの顔を見て、再び話し始める。
「まだ、信じられないようね。これならいいかしら。ユウさんのエッチな本の隠し場所は枕元のティッシュ箱とカバーの間。あと、デジタル化したデータをdropboxに、暗号キーをお財布の中に忍ばせたUSBメモリーに保存して隠してる。」
「じゃあ、愛先生。ひょっとして、ユウのエッチな本の内容は、同世代の女王様にいじめられているシュチエーションの作品の比率が多いって事も?」
「ええ。その通りよ?でもね、あんまり度を過ぎると、ストーカーって訴えられるわよ?アキさん?」
この時、僕が悲鳴をあげていたのはなんとなく想像がつくよね。この後、アキと愛先生が意気投合してしまったみたいで、気がつくと僕はアキと一緒に報道同好会の一員になっていた訳。
後々、愛先生と母やアキのとこのおばちゃんが同級生だったとか、父達のなれそめも似たような状態だったというのも知ることになるのだけど、またそれは言える度胸が出来た時にでも…。
一つだけ、愛先生の秘密ね。一緒なんだって、僕のユウって名前。愛先生の昔の…
…先生の眼が冷たいので、この辺で。
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