夏。とある街。つぶれかけの新聞社。それでも昔からの購読者により経営を維持していて、今年久しぶりの新人の記者を雇用した。
ただ、ほとんどの記事は時事通信社からの配信のもので、正直「ひま」そのものだった。
それも仕方がない。この街は割と平和であり、たまに入るほほえましいニュースでも大体は時期が決まっている。先輩も…そして彼も、それに慣れてしまっていた。
…そう、あの事件がおこるまでは。
「単なる熱中症と持病の心臓の線が高いですね。……となるとネタとしてはあまり大きくひっぱるのは難しいですね。」
夏休みの自治会のラジオ体操の当番だった男性が、会場の公園に行くまでの道中で亡くなったというのだ。男性は以前から心臓に持病をもっていて時々発作を起こしていたともいい、最悪な事に夜通しで飲酒をしていたらしく、事故として処理されようとしていた。
「ただ、気になるんですよ…。被害者は普段飲酒をされない方だそうで、たまに飲むにしても、飲み会でビールをコップに1杯程度で、飲んだら自転車でさえ飲み屋に置いて帰られるほどの慎重な方です。そんな方の自転車が自宅に戻ってたらしいんです。」
もちろん、誰かに頼んで移動させる可能性も当然あるのだが、それでも彼は解せなかった。被害者は自分の自転車に他人が触れる事を極端に嫌う人らしいからだ。
「解せないか?なら調べるしかないんじゃないか?幸い、おまえもかりださなきゃいけない大きな事件や行事は起こってない。忙しくなったら動けないし、さらに暇になったら今のままでは、おそらくおまえはリストラ候補だ。」
さらっととんでもない事を言いやがった……
「この事件で、おまえがうちにとって必要な人材か見せつけてくれ。」
彼にとってはじめての単独行動。これがとんでもない事になってしまうだなんて、この時誰も思いやしなかった。
(つづく…かどうかはわからない)
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